2016年12月26日月曜日

インドのふたつのカレー

カレー Advent Calender 2016 22 日目の記事です.

カレー†1の本場と言えば,言わずもがな,インドです. インドカレー屋は,案外街のあちこちにあったりして,馴染み深い人も多くなったんではないでしょうか.ところで,インドカレーと一口にいっても色々あります.大きく,北インド南インドでそれぞれ分けられます.北インドでもパンジャブ地方のパンジャブ料理と,ムガル帝国†2の宮廷料理であるムガル料理など,いくつか種類がありますが,タンドールを使った料理,ナンや,バターチキンカリーといったものを生み出したパンジャブ料理は日本でよく知られています.
この,南北ふたつのカレーについて,特徴を紹介しようと思います.

スパイス

北インドカレー

インドカレーの南北をそれぞれ象徴付けるのは,やはりスパイスです.北インドカレーでは,カルダモンクローブシナモンローリエといったものが,よく使われるようです.カルダモンは,スパイスの女王と呼ばれる,さわやかな香りが特徴的です.
カルダモン - 画像は Wikimedia commons より
クローブは,肉料理によく使われ,臭み消しだったりします.中国だと丁子
クローブ - 画像は Wikimedia commons より
ローリエはあの冠とかに使われる月桂樹の葉っぱ,と言えば通りが良いかと思います.この画像のような大きめの葉っぱが煮こまれて入ってるカレーとか,インド料理レストランで食べたことないですか?
ローリエ - 画像は Wikimedia Commons より
シナモンはみなさんご存知ですね.エジプトでミイラ保存料として使われたり,聖書に出てきたり,歴史の古いスパイスです.甘い香りがして,おかし作りなどに出てきますね.
シナモン - 画像は Wikimedia Commons より

こういったスパイスを,ホール(粉にしない,実や葉,樹皮のようなスパイスのそのままの形)で使うのが北インドカレーです.それも,最初に油でこれらを炒めて,作った香油を,鶏肉など材料に絡めて,調理していくというのが,大きな特徴となります.ちなみに,ここで書いた中でも,カルダモンやクローブ,シナモンは,ハウス食品や S&B が瓶詰めのスパイス粉として発売している「ガラムマサラ†3」の中によく入ってます.
東京都,神田神保町のインド料理屋,マンダラ.筆者撮影.

南インドカレー

対して,南インドではどのようなスパイスを使うのでしょうか.ホールスパイスとして使うものとして代表的なのは,マスタードシード赤唐辛子カレーリーフ
マスタードシードは,白芥子の種子です.あのマスタードの原料そのもの.場合によっては,粒入りマスタードなどにも使われる表皮の黒い黒芥子の種子も使われるようです.
マスタードシード - 画像は Wikimedia Commons より
唐辛子は言わずもがなですね.原産は中南米,現在のメキシコあたりなので,実は大航海時代の新大陸発見まで存在は知られてなかった,比較的新しいスパイスです.
赤唐辛子 - 画像は Wikimedia Commons より
カレーリーフは大葉月橘という木の葉っぱ.これはインド原産だそうです.橘という字が入っている通り,柑橘系のような香りが特徴だそうです.
カレーリーフ - 画像は Wikimedia Commons より
南インドカレーでは,これらのホールスパイスを使い作った香油は,料理の最後に入れることで使います.この,ホールスパイスを使うタイミングも大きな違いのひとつですね.
神戸三宮にある南インド料理屋,マドラスキッチン.筆者撮影.

パウダースパイス

色付けのターメリック(ウコン),肉料理の臭み消しでも有名なクミン,そしてコリアンダー胡椒.こういったスパイスを粉にしたパウダースパイスや,カルダモン・クローブ・シナモンなどをあらかじめ粉にしたパウダーのガラムマサラなんかは,北インドカレーでも南インドカレーでも,調理に使います.ホールスパイスと違って,玉葱のような香味野菜やトマトと一緒に炒めまくって使います.ちなみに,実はコリアンダーって中国だと香菜(シャンツァイ)と呼ばれたり,タイ料理だとその葉がパクチーと呼ばれたりします.ご存知でしたか?また,南北ともに,香味野菜やトマト,パウダースパイスを炒めた塊を,マサラといって,これに水を足して煮込めばカレーになります.ここで,香味野菜や具材を炒める段階でホールスパイスの香油を入れるか,最後に煮込んだあとにホールスパイスの香油で香り付けするかが,北と南を分けることとなります.

具材

北インドカレーは,鶏肉やマトン(羊)が中心.カシミヤで有名なカシミール地方も元はムガール帝国の版図ですし,パンジャブ料理のタンドールなどは現在のパキスタンとインド両方で使われましたからね.今は,立派な紛争地帯ですが…….対して南インドは,魚介類や野菜がメインです.とはいえ,サグ(ほうれん草)を使う,チキン・サグのように,北インドカレーだから野菜を使わない,というわけでは全くありません.ただ,メインの食材が違うということになりますね.

主食

北インドでは前述の通りタンドールの発祥でもありますし,ナンのようなものをカレーと共に食べますが,実は南インドカレーではご飯と一緒に食べます.とはいっても,勿論米はインディカ米ですね!スパイスの節で掲載した画像も,それぞれナンの付いたカリーと,ごはんの付いたカリーになってますね?

インドカレーのススメ

さて,スパイスや具材,調理手順から,北と南,ふたつのインドカレーを紹介しました.ところで,インドカレーって基本的にレストランで食べて,おうちカレーは日本カレー,という方が多いと思います.しかし,実は試してみるとそれっぽいカレーは案外おうちでも作れたりします.パウダースパイスの節でも書きましたが,炒める,煮込む,これだけなので,あとはスパイスを揃えるだけですね(これが大変なのですが).とはいっても,これまで書いたように,インドカレーは多様です.そこで,次の本は,自宅でインドカレーを作るのにとっても役立ちます.

これは,銀座のカレーレストラン,「ナイルレストラン」のシェフによるレシピ本で,北インドカレーと南インドカレーの違いも含めて,様々なレシピが紹介してあります.カレーだけでなく,カレーとあともう一品,というときのインド料理の一品や,インド料理の主食などのレシピも紹介されており,とても素晴しいです.

ちなみに,芸能界屈指のカレー通として有名なタモリさんは独自のレシピを考案したりしていますが,カレー粉はナイル商会のインデラ・カレー粉とこだわっているそうです.このナイル商会のカレー粉は,「ナイルレストラン」初代オーナー G. M. ナイル氏との出会いによって生まれたそうで,公式サイトにナイル氏のコメントが寄せられています.
筆者が作ったタモリさんレシピのカレー.インデラ・カレー粉を通販で買いました.
筆者がタモリさんのレシピのカレーを作ったときの様子はこの記事です.

おまけ

私は最近,カレー粉(パウダースパイス)に,RAJ というメーカーのスパイスを使ってます.
というのも,JR 秋葉原駅の南側の高架下,ニュー秋葉原センターの奥に,ヒンドゥー系っぽい人が営業している食料品店があったので,つい買ってしまったのです.これが,なかなか本格的な薫りがして,結構気にいっています. これはカレー粉ですが,他にもいろいろ日本のスーパー等でみかけないパッケージのパウダースパイスが置いてあったので,一度足を運んでみると楽しいかもしれないです. 最後に,最近作ったバターチキンカレーの画像でお別れです.

脚注

†1:元々はタミル語.タミル語はドラヴィダ語族に属する.インドの言葉について,主たる公用語であるヒンドゥー語や,仏教で真言を表わすのに使われる悉曇文字の悉曇が指す,古典語のサンスクリット語などといったものは,インド・ヨーロッパ語族に属しているが,これはヨーロッパの人種とも祖を同じにするアーリア人がインド北部に攻め込んだため.タミル語のようなドラヴィダ語族を操る人達は,このアーリア人に追われて南インドまで逃げ込んだ.ここではアーリア人とはインド・ヨーロッパ祖語を話していた人々のことを指す.
†2:16 世紀のパンジャブ含む北インドから始まり 19 世紀まで続いた,最盛期に南インドの一部を除くインド亜大陸と現在のパキスタンあたりをほぼ版図に収めた帝国
†3:熱い(ガラム)+ミックススパイス(マサラ)の意.ちなみにここで紹介したホールのスパイスをまとめてホール・ガラムマサラと言うことも.

参考文献

[1] ナイル善己(2014)「「ナイルレストラン」ナイル善己のやさしいインド料理」世界文化社.ISBN: 978-4418143030